アーサーと菊は海に来ていた。
「菊、水着は?」
「着てますよ。でも、熱そうだし日焼けすると痛そうなので、パーカー着てるんです。」
持ってきたビーチパラソルを広げて日陰を作った。
日陰で菊が座っていると、カニが来た。
「一口サイズですね。」
カニを捕まえて菊はつぶやく。
「いや、食べられないから。」
と言われると残念そうにカニを放す。
「せっかく海に来たんだから泳ごうぜ。」
アーサーに手を引かれて波打ち際まで来たが、足が急に止まる。
「泳いだこと、ないんですよ?」
「大丈夫だって。この辺浅いから。」
恐る恐る菊が入る。
はじめは海水の冷たさにちょっとびっくりしたが、アーサーのところまで行こうと歩いた。
途中、何かにつまづき、派手に水しぶきを上げながら転んだ。
「怖いです。あと、しょっぱいです。」
アーサーの手を借りて立った。
アーサーとはぐれないように、しっかりと菊はアーサーの腕にしがみついていた。
いつの間にか水は菊の肩ぐらいのところまで来ていた。
何かがついてアーサーは急にもぐった。
びっくりして、菊はあわてたがアーサーはすぐに立った。
「何するんですか!」
「ごめん。ほら。」
アーサーが掴んでいたのは魚。威勢よく動くのですぐにアーサーの手から滑りぬけていった。
「ちょっと待ってろ。」
なれない海で一人でいるのは怖かったが、菊は腕を放して待っていた。
たまに足に何かが当たるたび「ひぃっ!」と小さく悲鳴を上げる。
アーサーが戻ってくる頃には涙眼になっていた。
「遅いですよぉ。」
「わりぃ。ほら。」
渡されたのはパンの入った袋。
アーサーが菊にゴーグルをつけると
「もぐるぞ。」
菊はアーサーにしがみついたまま、目をつぶってもぐった。
アーサーにゴーグルを突っつかれ、そっと目を開けると色とりどりの魚が泳いでいた。
アーサーが手を出していたので、袋を渡した。
袋からちぎったパンを出すと魚が一点に集まってきた。
気がつくと、すでにアーサーの手にはパンが無く、またちぎってパンを今度は菊に渡した。
魚が寄ってくると、くすぐったくて菊はパンを離してしまった。
アーサーはもっと奥に行こうと菊を抱いて泳ぎだした。
菊より背の高いアーサーの足が届かなくなるところまで来た。
ここでもパンをあげていると、アーサーは菊を呼んで指をさした。
その先にはウミガメがいた。
それに見とれているとカメが近づいてきた。
パンに群がる魚のほうに来て小魚を食べた。
びっくりする菊にアーサーが言う。
「カメは雑食だけど人間は食べないって。」
少しほっとしたような菊はカメにパンをあげようとするが、その前に魚に食べられてしまう。
結果的にパンはあげられなかったが、パンに食いつく魚を時々食べていた。
「俺らもご飯にするか。」
「はい。」
そういって浜に上がった。