ナイモノネダリ

「聖太!」

 聖太と呼ばれた男子が振り返ると一人の女子が飛びついてきた。

「うわっ(またかよ…。)」

 なんて、嫌に思っていた。

 

 彼女は愛香。中学からの仲。俺を見つけるたびに飛びついてくる。

 飽きずと会うたびに長々話をしてくる。

 そんな彼女を俺は「うざい」と思う。

 

 

「何だよ。」

「今日も会いたくて来ちゃいました。」

「ハァ…。(…ウザっ)」

「どうしたの?」

「別に。」

 

 静かにしてくれと思う。

 

 

 

 「うざい」とか思うけど、何かと手伝ってくれることがある。

 お節介だとか、付きまとうなとか思うけど。

 

 

 

 そんな毎日はある日、崩れた。

 

 

 よく遅刻や早退をする彼女は日がたつに連れて、休む回数が増えてきた。

 …あんなにうるさいやつが? 

 ついには学校に来なくなった。

「関係…ない…か…。」

 

 

 ある日、彼女の家を訪ねた。

 病院に居ると教えてもらい、病院に向かった。

 

 

「何でそんなところに居るんだ?」

 

 

 真白な部屋の窓際にある真白なベッド。そこに彼女は座っていた。

 窓から空を眺める。青とオレンジが混ざるような色をした空。

 

 

「来てくれたんだぁ!」

 

 

 来た事に気付くと眼を輝かせて振り返る。

 

 

「何だよ、ぴんぴんじゃねーか。」

「心配してくれていたの?」

「別に。」

「そっか。」

 彼女は笑っていた。

 

 

 グラデーション気味の空は、いつの間にかオレンジ一色になっていた。

 

 

「あのさ…もう長くないんだ…。」

「は?」

「もうすぐ…死んじゃうんだって…」

 消え入りそうな声彼女はで言う。

「お前が?あーそうなんだ。せいせいした。」

「アハハ。」

 彼女は大きく笑う。

 

 

 冗談だと思う。冗談であって欲しい。

 

 

「静かになるな。」

「だね。よかったじゃん。」

「さて、そろそろ帰るか。」

「じゃあね。気をつけて。」

 帰り際の彼女は笑顔に見えた。でも実際、彼女の眼を涙が潤していた。

 彼が出て行くとその塩水は頬を伝った。

 

 

 

 

 

 

何であの時、冗談だと思ったんだろう。

何であの時、強がったりしたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

 

 

 

 

 学校の彼女の席に花が添えられていた。

「嘘だろ…。」

 教室に入って、初めの一言。

 

 

 

 

 気付けば、彼女が居たつもりでいた。

 

 

「愛香。」

 

 

 でも、いつものお節介がいないと気付く。

「あ…。」

 

 

 

 何日かして、一通の手紙が来た。

 宛名も何も書いていない白い封筒。

 誰からだろうと思いながら読み始めた。

 

 

 

「 聖太へ

  鬱陶しくて、嫌いだとか思うかもしれない。

  でも、聞いてね。聞くだけでいいから。

 

  ありがとう。だいすきだよ。

  私がすれ違うたびに、見つけるたびに飛びつくと、嫌そうな顔をするの。

  知っていてやっていた。ごめんね。でも、すっごく楽しかったよ。

  私のこといつも助けてくれていたのに何もしてあげられなかった。

  ごめんね。

 

  一言追加。

  ちゃんと好きな子、見つけるんだよ。

  わかってくれる子を、見つけるんだよ。

 

    さよなら。

                                 愛香   」

 

「なんだよ。」

 

 気付かないうちに彼の頬に涙が伝う。

 

「いつもいつも…お節介はお前だろう…。何もやれなかったのは俺だろ…。一番わかっていたのはお前じゃなかったのか…?」

 

 涙と彼女への想いが溢れ出す。

 

 

 

 

 俺は「大切なもの」に触れられなくなってから、「大切なもの」だと気付いた。

 傍にあって…近すぎて…何かわからなくなってしまった。

 どうすればいい?

 

 

 

 

 過去は変えられないから、それをバネにしよう。

 これから見るもの、まだ手元にあるもの。大切にして行こう。

 

 

 

 

 教えてくれて、ありがとう。