雨の日に

ガラガラガラ…引き戸が開いた。

「ひどい目にあったな。」

「急に降り出すなんて…あ、先にお風呂に入ってください。風邪ひかれても困りますので…。」

菊に押されてアーサーはお風呂に向かう。菊はタオルを持って台所に向かった。

 

お風呂上りのアーサーは菊の姿を探していた。

「あ、こちらです。」菊の声が後ろからしたので振り返った。

菊につれられてきた部屋の卓袱台の上には食卓がずらりと並んでいた。

「どれもうまそうだな。いただきます。」

卓袱台の上にあった料理は三人前ほどあり二人にとってちょっと多いように思われたが、食事が終わるころには綺麗に平らげられていた。

 

「では、おやすみなさい。」

そういってアーサーはふとんのひかれた部屋につれてこられたあと、菊は部屋をすぐ出た。

 

 

翌日。時刻は十時半を過ぎていた。

「いないな…。」

アーサーは菊の家を長いことうろついていたが台所にも、茶の間にもいなかった。

「ここか?」

最後の部屋の前にアーサーは立っていた。

 

スー…アーサーの開けた障子の開く音が響いて聞こえた。

部屋の中にはふとんが敷いてあり、ふとんが山になっているのが見えた。

「おい。」部屋に上がってふとんをゆすってみた。

「…あれ…。アーサーさん…。…今何時ですか…?」

ボーとした表情でアーサーの顔を見上げる。

時刻を教えると菊は驚いた顔をして立ち上がろうとした。

が、立ち上がると同時にまた座り込んでしまった。

「どうした?」アーサーは菊を支えるようにしゃがみこんだ。

菊の体温がどれぐらいか知らないが、異常なほど熱かった。

「おい、昨日あのままぬれたままだったのかよ。」

「…着替えて…タオルで拭きましたよ…?」

「暖めてなかっただろ。とりあえず、朝食は俺が作るからここで寝てろ。」

「…あ…お客さんに朝食を作っていただくなんて…私がやります…。」

菊はおぼつかない足で台所に向かった。

「悪化するからねてろ。」

「だめです…。」

妙に菊は必死だった。

というのも、アーサーは味音痴で菊にはとても食べられないものができると十分承知していたからだ。

どれだけ言っても退きそうにもない菊を見てアーサーは後ろから菊を支えることにした。

そっとつつみ込むようにアーサーは菊の腕となっていた。

菊は風邪とは別の温かさと頬の熱を感じていた。

 

できた朝食は味噌汁とご飯…で手いっぱいだった。

その二品は二人にとってとてもおいしいものだった。