――――水の音がする…。
気がつけば翠の木々と蒼い空に囲まれた世界だった。
菊は起き上がり周りを見回した。
自分以外、動くものは視界に入らなかった。
「何処でしょう…。」
植物と空、川、大きな岩。
ジャングルとも言えそうだがとりや動物の声はまったく聞こえず、しんしんと川の流れる音だけが響く。
ここにとどまっていても始まらない、少し行けば知っているところに繋がるだろう。
そう想い菊は歩き出した。
道のような跡はあるがそれが何処に繋がっているかさえわからない。
草の生い茂る森を抜けた―――そう思った。
しかし、次に菊を待っていたのは沼―――マングローブのような場所だった。
ビシャビシャと歩くたびに鳴り、足元は泥だらけになった。
川も途中で無くなり音の無い世界で菊のため息は響く。
「…アーサーさん…。」
期待などしていなかったがやっぱり返事は無かった。
沼―マングローブはいつの間にか岩ばかりの洞窟に繋がっていた。
何処から光が入ってくるのか分からなかったが赤褐色の岩がよく見え、ぶつかることは無かった。
相当な時間が過ぎたように感じられ、誰も、何も無いこの場所が怖くなった。
次こそどこかに繋がっているのではないか、そう思ってあきらめずに歩き続けた。
どれだけ進んでも岩ばかり。振り返っても正面を向いても出入り口は見えない。
生き物も出口も見つからない洞窟で菊は急ぎ足になっていた。
「何処…?」
もちろん答えは無い。
「…誰か…。」
不安と怖さで菊の頬には涙が伝う。
菊は必死に走っていた。
「…アーサーさん…」
つぶやくと同時に急に疲れた体が軽くなった。
「!!」
―――おい。
「…アー…サー…さん…?」
気がつけば菊はアーサーの腕の中にいた。
探していた人が目の前にいた。
安堵と嬉しさで菊はアーサーにしがみついた。
「どうしたんだよ。こんなところで寝ていると風邪ひくぞ。」
「…夢…でしたか…。」
「涙なんか浮かべて…。」
アーサーは菊の瞳に溜まった涙を拭いた。
「怖かったか。」
菊を抱き寄せて頭を撫でる。
「でも、次に見る夢は俺と一緒に遊んでいる夢だからな。」
アーサーは菊にはにかんだ笑顔を向けた。